雨の日のお散歩

子が「おじちゃんに、ぬいぐるみのお礼をいいたいの〜」というので、雨の日に実家まで歩いた。

実家は近い。自宅にいても実家にいる父のくしゃみが聞こえるほどの至近距離にあるのだが、雨が割と降っていたので、うーん少し面倒だなというのが正直な気持ち。

「お礼」というのは、昨晩、私の弟に「ゴーヤちゃん」というぬいぐるみを貰ったことに対するお礼だ。子は終始それをニコニコ眺めたり、抱きしめてみたり、一緒に寝たり。いたく気に入ったようだ。昔、「ちゅらさん」というNHKの連ドラがあって、劇中に「ゴーヤーマン」というのが出てきたっけ。ヒロインの兄役の、ガレッジセールのゴリが作ったキャラクター、だった気がする。ゴーヤちゃんは、それとは別物らしい。ゴーヤーマン好きだったな。ゴリって今いくつなんだろう。

ゴーヤのぬいぐるみでこんなにハッピーになれるのなら、弟はとてもいいものを買ってきてくれたと思う。

さて、雨の中支度するのはおっくうだったが、子はどうしてもといって聞かない。私も「お礼を伝えたいという殊勝な気持ちをないがしろにしてはいけない」という気持ちが勝った。子は長靴を履き、ゴーヤちゃんを入れたリュックを背負う。近所に行くのにわざわざ大げさな格好になってしまうのが、人生4年目のこなれてなさというか、かわいい。

家から出るとさっそく水たまりに入り、嬉しそうに足踏みしている。長靴を履かせていると、水たまりでバチャバチャやってていても、こちらも咎めることなく眺めて待っていられる。たーんとおやり。

少し先には、実家の塀を飛び越して、まるまるとして大きな甘夏がなっている。食べごろだ。そろそろ切って食べなきゃな。これだけおいしそうになっているのに、近所の誰も盗らない。治安がいい。

甘夏の下を通り過ぎるころに、息子がこちらを見上げて、「雨の日のおさんぽも、なんだかちょっとイイネ〜」と言った。サイズアウトしつつある「はらぺこあおむし」の傘の中から顔をのぞかせて、ニコニコしている。いい笑顔だ。君が今着ている中綿アウターの蛍光イエローに負けないくらい、眩しい。雨の日の気だるさを軽く吹き飛ばしてしまう。君にとってはお散歩だったんだね。確かにいいな。いいね。

子は実家で、無事、私の弟にありがとうを言えた。その後は夫と3人でとんかつを食べる予定だったので、ドラえもんを2話見たところで家に戻る。外に出てもまだ雨が降っていた。

ふと足元のアスファルトを見やると、カタツムリが地面をはっていた。子は腰をまるめて嬉しそうに眺めている。私たちが見ていたせいか、カタツムリはほとんどじっとしているように見える。「ぜんぜん動かないネー」と子が言った。

とんかつ屋への行きしなにもう一度通りかかると、カタツムリは左に20cmほど移動していた。